【読書】制御工学の考え方

 

制御工学の考え方―産業革命は「制御」からはじまった (ブルーバックス)

制御工学の考え方―産業革命は「制御」からはじまった (ブルーバックス)

 

前置き

制御工学については、隣の学科が開講する科目として学部3年前期に受講*1し、2単位を習得した。ラウスなんたらとか、ボーデ線図とか、極がどうたらとか、断片的なことは覚えているが、使える知識としてはほぼゼロである*2

当時の勉強の仕方について共通した反省があり、それは数式を追うことにフォーカスし過ぎてしまい、応用を意識したりポイントを掴むことが不十分だったこと*3*4。 

概要

前置きが長くなったが、この本について。

内容としては、制御の歴史から始まり、制御がどのような学問/分野なのかを語り、産業での応用や、他分野との関連、当時から見た展望などについて述べる。

制御工学を愛しているあまり前のめり気味ではあるけれど、全体的には好感が持てる。他分野について言及する時にやや勇み足と思われる記述があるけれど。

 

詳細

以下、重要と思われる点や、自分が気になった点などについて。

■第1章 「制御」の誕生(制御の歴史)

Maxwellが調速機をモデリングし、システムの安定性の問題を初めて議論した

・「ハンチング」はなぜ起こるのか知りたい

・サーボ機構それ自体が制御なのかはよく分からない

・兵器(飛行機、ミサイル、魚雷、潜水艦等)では制御が大いに活用されてきた

ジャイロスコープとレートジャイロの仕組み調べたい

・プラントでも活躍(ハーバー・ボッシュ法)!

フィードバック制御は通信工学が起源(真空管による増幅器)

・Wienerによるサイバネティクスも制御

・制御と最適化の関係

・現代制御理論とは?(Kalmanの理論、ロバスト制御)

■第2章 制御とは何か(制御概論)

・対象がダイナミクスを持つため、持続的に行う必要がある

・「合わせる」(規格化)「保つ」(定常化)「省く」(自動化)

・目的(制御したい量)と手段(操作できる量)を決め、その因果関係として対象を捉える

・制御とは、操作量を用いて制御量と基準量との差をなるべく小さくすること

・(多くの)フィードバック制御は、誤差に基いて操作量を決める

・フィードバックは外乱を抑制する(理由は省略されている)。また、システムの特性が変わってもその影響を減らす

フィードフォワードは先手を打てるが、フィードバックと合わせて使う

・「制御アルゴリズム」の設計とはどのようなものか?

・センサーとアクチュエーターの重要性

モデリングの不確かさ(難しさ)→ロバスト制御(知りたい)

・シーケンス制御(またはプログラム制御)とは?

■第3章 森羅万象に宿るダイナミクス(ダイナミクスの重要性)

・過去の作用が未来の挙動に影響を与えること

・株価と車のエンジンの回転数の平衡点への移行、にはダイナミクスを考えることが必要

・現象を見据え、現状が変化のプロセスのどの段階にあり、今後現象がどの方向に向けて進んでいくのかを見極めるには、ダイナミクスへの理解が必要

・時間経過を待つ辛抱強さと、現象の背後にあるダイナミクスへの洞察が必要

・予測も重要。予測は「状態推定問題」として定式化されている。カルマンフィルタは、状態推定の有力なツール

■第4章 ロボットアームに絵を描かせる(モデルベースト制御の概略)

・仕様の決定。何をどのような手段でどこまで制御しようとするのかを具体的に表すことが制御のスタート

・仕様で最も基本的なのは安定性

・モデルフリー制御(含PID制御)とモデルベースト制御

システム同定は、制御理論の重要な分野

・実際のロボットアームは自由度が6

・角度の誤差を検出し、フィードバック。フィードフォワードでトルクを計算(二自由度制御)

■第5章 商品価値を高める制御(具体例その1)

・エアコン

・ハードディスク(探索モードと追随モード)

・自動車のエンジンの燃焼の電子制御

・自動車のABSによる安全性の向上。今後は道路や信号などへ?

・自動車のサスペンション(アクティブ・サスペンション)

・飛行機の制御。垂直尾翼がないステルス機

・船の減揺

・アクティブな免震・制震(ビル、橋)

・パワーショベルの自動化

・制御系を、それを使う様々な環境の中で、システム全体の一部として機能を発揮させるのは簡単ではない。保守までを考慮に入れた、様々な要求と折り合いをつける必要。

■第6章 重厚長大から微細濃密まで(具体例その2)

・製鉄。対象の変化の度合いが大きい

・様々な自動化が進んできたが、溶鉱炉の自動制御はできていない。高炉の内部で起こっている現象が複雜で、誰にも分かっていないから。一部は「エキスパートシステム」を利用

・圧延制御

半導体。高速熱処理の温度制御、リソグラフィーの位置制御、空気ポンプの磁気軸受

・工作機械。協調動作、ナノレベルの動作

■第7章 ロボットの進化

無人工場を目指して

・教示→機械学習が使われてそう

・視覚情報→いわゆるコンピュータビジョンか

・マスター/スレーブ方式(コンピュータを補助に使ってるくらいな感じ)

・インターネットを利用した遠隔操作、感覚の伝達

・ロボット同士の通信(ノード間通信?)

・人型ロボットへは、認識と知能、機構の2種類が必要

■第8章 広がる制御のフロンティア

・インターネットとの結合

・通信自体の制御→面白そうだけど、今はどれくらいまで行っているのか

核融合→夢はあるが記述は入れ込み過ぎ感ある

・化学反応のレーザー操作→ざっくりし過ぎてて何の話をしているのか分からない

・ゆらぎの制御→ここに書かれている不確定性関係の説明は誤り

・環境/経済→どうなんでしょうね

分子生物学→理解はある程度進んでそう

・脳→ちょっと具体的に書かれているが記述の妥当性は分からない

・適応制御→まさしく機械学習。「学習は実世界でのできごとを論理に投影すること」

 

amazonの書評にある通り、制御の具体的なモデリングの仕方や使い方についてはほぼ載っていないのだけれど、自分は読んでる時はそれに気づかなかった笑。

個人的には、製鉄所(どうやら住友系の話でのあるようだ)に制御を応用して性能を向上させたという話について、どのようなモデリングなのかを知りたいと思った。

最後の方で、IoTと機械学習のような話が出ているのが慧眼。

*1:制御論第一」という授業名。学部2年後期の「回路とシステム」の続きのような扱い。先生が同じ人だった

*2:ひとつ言い訳をすれば、高校で物理未修の自分には、前提知識となる回路自体が馴染みのあまり無いものであった。また、制御を「使う」機会(実習やその後の研究)も無かった

*3:これは今もそういうところあるのだけれど

*4:とは言え最終的には数式を自在に扱える必要もあるとも思う